




明治3年の杉本家住宅棟上と同時期の作といわれる石づくりの兎。
やわらかな毛の質感と豊かな丸みに石の質感が生きる。
初秋を迎えてなお、残暑続く京の町。わずかな陽光のやわらぎに見上げると、空高く横切るすじ雲に夏が去ったことを感じます。祭礼の続いた季節が過ぎ、静けさを取り戻した京の町。少しずつ近づく秋の兆しを探しに杉本家を訪問しました。

前庭に咲き乱れる萩と、フジバカマに羽を休めるツマグロヒョウモン。
移ろう季節は、花々の便りによっても運ばれてきます。杉本家住宅には数多の草木が配され、季節ごとに庭々の表情を彩ります。僅かな気温の変化を感じ取り、開花してゆく秋草は愛らしくもはかなげ。か細い茎を野分に揺らす様子はこの季節ならではの風情です。

秋も色濃くなる9月下旬には、建具を元に戻す建具替えが行われます。夏の間、日を遮り風を導いた簀戸、簾といった夏建具は障子、襖へと替えられます。また秋の好天は障子紙の貼り替えには良い機会。巻紙になった美濃紙を寸法に合わせたり、糊の硬さを調整するなど充分な手間をかけることで、美しい張りのある障子へ仕上がってゆきます。美濃紙の障子を通る秋の光は、部屋の隅々を優しく照らします。

思いのほか足早に訪れる夕暮れも秋の兆しのひとつです。暮色がせまり、ひと際高まる虫の音が澄んだ空気を震わせます。うつわはそろそろざっくりとした質感が似合い始めるころ。名月を待つ宵のひとときに、織部の澄んだ緑色と土の味わい深い備前のうつわを選びました。静かに盃を重ねれば、まもなく東山の稜線が月光に白みはじめます。