第10回 杉本節子さんに聞く「京町家 秋の気配」 京町家のくらし

杉本節子さんに聞く京町家のくらし
杉本家当主 杉本節子さん
京の人々は四季の移ろいを楽しみ、快適に過ごすため、くらしに様々な工夫を凝らしてきました。それらは長年にわたって研ぎ澄まされ、その所作、室礼には美しさが宿っています。歴史ある杉本家のご当主杉本節子さんから、凛とした京町家の暮らし方を学びます。
重要文化財杉本家住宅:町家としては京都市内最大規模に属し、表屋造りによる大規模な町家構成の典型を示します。建造物全体にわたって江戸時代に熟成された京大工の技量が遺憾なく発揮され、江戸以来の大店の構えを現在によく伝えています。

明治3年の杉本家住宅棟上と同時期の作といわれる石づくりの兎。
やわらかな毛の質感と豊かな丸みに石の質感が生きる。

第10回 京町家 秋の気配

初秋を迎えてなお、残暑続く京の町。わずかな陽光のやわらぎに見上げると、空高く横切るすじ雲に夏が去ったことを感じます。祭礼の続いた季節が過ぎ、静けさを取り戻した京の町。少しずつ近づく秋の兆しを探しに杉本家を訪問しました。

前庭に咲き乱れる萩と、フジバカマに羽を休めるツマグロヒョウモン。

初秋の庭

移ろう季節は、花々の便りによっても運ばれてきます。杉本家住宅には数多の草木が配され、季節ごとに庭々の表情を彩ります。僅かな気温の変化を感じ取り、開花してゆく秋草は愛らしくもはかなげ。か細い茎を野分に揺らす様子はこの季節ならではの風情です。

秋の建具替え

秋も色濃くなる9月下旬には、建具を元に戻す建具替えが行われます。夏の間、日を遮り風を導いた簀戸、簾といった夏建具は障子、襖へと替えられます。また秋の好天は障子紙の貼り替えには良い機会。巻紙になった美濃紙を寸法に合わせたり、糊の硬さを調整するなど充分な手間をかけることで、美しい張りのある障子へ仕上がってゆきます。美濃紙の障子を通る秋の光は、部屋の隅々を優しく照らします。

月待ちの宵

思いのほか足早に訪れる夕暮れも秋の兆しのひとつです。暮色がせまり、ひと際高まる虫の音が澄んだ空気を震わせます。うつわはそろそろざっくりとした質感が似合い始めるころ。名月を待つ宵のひとときに、織部の澄んだ緑色と土の味わい深い備前のうつわを選びました。静かに盃を重ねれば、まもなく東山の稜線が月光に白みはじめます。