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第9回 杉本節子さんに聞く「京町家の夏の行事」 京町家のくらし

杉本節子さんに聞く京町家のくらし
杉本家当主 杉本節子さん
京の人々は四季の移ろいを楽しみ、快適に過ごすため、くらしに様々な工夫を凝らしてきました。それらは長年にわたって研ぎ澄まされ、その所作、室礼には美しさが宿っています。歴史ある杉本家のご当主杉本節子さんから、凛とした京町家の暮らし方を学びます。
重要文化財杉本家住宅:町家としては京都市内最大規模に属し、表屋造りによる大規模な町家構成の典型を示します。建造物全体にわたって江戸時代に熟成された京大工の技量が遺憾なく発揮され、江戸以来の大店の構えを現在によく伝えています。

第9回 京町家の夏の行事

八月。山に囲まれた京の町はうだるような蒸し暑さ。路上の照り返しに辟易する猛暑にあっても、杉本家の夏座敷の翳りのなかに身を置けば、屋内を吹き渡ってゆく風が火照りを鎮めてゆきます。杉本家の八月は、先祖への畏敬の念を深め、想いを巡らせる月です。お盆とならんで杉本家の夏の大切な行事である「宿場入り」をご紹介します。

左)奈良屋看板 京都に本店を構え、千葉佐原・佐倉に支店を持つ「他国店持京商人」であった。
右)明治期の看板 かつて手掛けていた製茶業が看板に残る。

宿場入り

杉本家初代は享保二年(1717年)に京の呉服商へ奉公にあがり、精勤の末独立別家を許されて烏丸通四条下ルに呉服商奈良屋を開いたのは寛保三年(1743年)8月5日のことでした。杉本家はこの日を「宿場入り」(暖簾わけの意味)、すなわち創業記念日として今日にいたるまで祝ってきました。

8月5日の宿場入りの日。座敷床に飾り付けられた杉本家代々ゆかりの品々。

宿場入りの床飾り

最も大切に受け継がれてきた軸は、宿場入りに際して買い揃えられた品々の仔細を軸に仕立てたもの。鍋、釜から蝋燭、墨、筆、帳面など、店を構えるにまず必要とされたおよそ百品目が細かく記録されています。また、三代目の記した「教文記」と「定例書」には、丁寧と行儀、奉仕の精神が説かれ、諸事倹約の一方で付き合いには不義理なきようとの戒めが記されたもので、かつては商売の節目ごとに朗読披講されていました。これらの古文書の他、東海道を下った際に使われた衣類や身の回りのものが飾られます。

受け継がれる先人の想い

先人が遺した教えや戒めを、後世の人々が受け継いでゆく。子孫の繁栄を願う品々に触れると、時代が移っても人としての在り方が不変であることを感じます。杉本家の宿場入りには、現代を生きる人々にも多くの価値ある教えが込められており、それ故、欠かすことなく継承されてきたのではないでしょうか。幾代にわたり、宿場入りに集った方々へ涼を届けたであろう座敷庭を眺めながらいただいたのは懐かしい冷やしあめ。ほんのり香る生姜の風味に簀戸ごしの風をより涼しく感じました。

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