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第1回 杉本節子さんに聞く「京町家のおだいどこ」 京町家のくらし

杉本節子さんに聞く京町家のくらし
杉本家当主 杉本節子さん
京の人々は四季の移ろいを楽しみ、快適に過ごすため、くらしに様々な工夫を凝らしてきました。それらは長年にわたって研ぎ澄まされ、その所作、室礼には美しさが宿っています。歴史ある杉本家のご当主杉本節子さんから、凛とした京町家の暮らし方を学びます。
重要文化財杉本家住宅:町家としては京都市内最大規模に属し、表屋造りによる大規模な町家構成の典型を示します。建造物全体にわたって江戸時代に熟成された京大工の技量が遺憾なく発揮され、江戸以来の大店の構えを現在によく伝えています。

第1回 京町家のおだいどこ

京呉服商の暮らしが営まれた杉本家住宅。
大勢の奉公人の食事をまかなったであろう、約12畳もの“おだいどこ”は、往時の様子をそのまま残す杉本家住宅の象徴的な見どころのひとつです。
幾世代に渡って磨かれてきた黒光りする柱や梁。合理的な理由が生んだ火袋や走り庭の造形美。元来神聖な場所であったことを思わせる大黒様の存在など、京町家ならではのおだいどこがここにあります。ていねいに慈しむように炊きあげられたごはんは、神々しささえ湛えているよう。
杉本家当主 杉本節子さんに杉本家住宅のおだいどこをご案内いただき、その魅力に迫ります。


おだいどこの風景

おだいどこの風景
かつての杉本家住宅のおだいどこは、12畳の広さに七つの竈口(かまぐち)を持つ「七つ竈土(くど)」を有していました。大正年間に、ガスを引き込んだ四つの竈口の「四つ竈土」に縮小。おだいどこも南付きの3畳が小間に仕切られ、現在の姿となりました。
屋内にあって、意外なほどの明るさに視線を上に向けると、高い位置に設けられた大きな窓と、その上に屋根まで伸びてゆく吹き抜けの広大な空間「火袋」にしばし目を奪われます。
煮炊きの匂いや熱気を広く逃し、最上部にある小屋根のかかった開口部から屋外へ排出されるという合理的な理由による建築様式でありながら、縦横に組まれた太さも様々な梁が生みだす造形美は、町家のおだいどこならではの見どころ。
黒煉瓦で角型に築かれた竈土は、おだいどこの主役として堂々たる存在感を放ちます。その傍らには、長く人々の営みを見守り続けてきた大黒様の柔和な表情があり、空間をやさしく和らげています。


おくどさんで炊く羽釜ごはん

杉本節子さんは動きも軽やかに手際よく準備を進めます。杉本節子さんの最初のアドバイスは、お米は「乾物」ということ。
美味しくごはんを炊くための最初のステップは、お米を水に浸し充分に吸わせること。近年は炊飯器まかせになりがちなこの工程。乾物を戻すようにしっかりと水を含ませ、芯まで水の行き渡ったお米を加熱することで、ふっくらとしたごはんに仕上がるのです。
いまでは目にすることも少ない一升炊きの羽釜。火加減の調整が難しそうと思われる方も多いのでは。杉本節子さんによると、火加減の調節にコツがあるのだそう。ポイントは「時間」。「2分・3分・5分・15分」で炊き上げること。まず強火にかけて、沸騰したらそのまま2分。それから中火に落として3分。最後に弱火で5分で火をとめ、15分蒸らすということ。芳ばしい香りについ中を覗きたくなりますが、赤子が泣いても蓋を取らずに我慢を。
いよいよ炊きあがり。湯気を通して一粒一粒がつやつやと輝く様子に歓声が上がります。
炊き立てを口に運べば、口いっぱいに広がる香りとほこほことした食感にしばし言葉を失います。羽釜とおくどさんで炊かれたごはん。それは、日々口にしているものとは確かに異なり、お米本来の風味の奥深さを伝えてくれるものでした。


土鍋ならではの特徴が炊飯に活きるごはん鍋

おくどさんで炊いた羽釜ごはんをたっぷり堪能した後、杉本節子さんに“極みごはん鍋“を家庭用ガスコンロの火にかけ、ごはんを炊いていただきました。
羽釜と同じく最初は強火で。沸騰したら弱火に落として2分で火を止め、あとはそのまま15分蒸らすだけ。炊飯に特化したこの鍋は、通常の土鍋よりも生地を厚く取ることで、蓄熱、保温性が高められ、鍋内部の圧力を逃さぬよう、蓋に重さをもたせています。
また、羽釜同様に丸く仕上げた内底はお米の対流を促し、一粒一粒に均等に熱を伝えます。
せっかくですから、と杉本節子さんが手ずからよそっていただいたごはんは、いちばん美味しいといわれる鍋のふちのごはん。余分な圧がかからないからお米の粒を損なわず、みずみずしさと豊かな風味を味わえる、とっておきの部分です。その味わいは、羽釜のごはん同様、お米本来の魅力をしみじみと伝えてくれる美味しさ。杉本節子さんからも「おいしい!」と嬉しいお褒めの言葉をいただきました。

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