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- 1月 | 杉本節子さんに聞く「京町家の年迎え」
- 2月 | 杉本節子さんに聞く「町屋を彩る花の風情」
- 3月 | 杉本節子さんに聞く「京町家のおひなさん」
- 4月 | 杉本節子さんに聞く「京町家 一服に憩う」
- 5月 | 杉本節子さんに聞く「京町家の五月人形」
- 6月 | 杉本節子さんに聞く「京町家の夏迎え」
- 7月 | 杉本節子さんに聞く「京町家の屏風祭り」
- 8月 | 杉本節子さんに聞く「京町家の夏の行事」
- 9月 | 杉本節子さんに聞く「京町家の秋の気配」
- 10月 | 杉本節子さんに聞く「秋の光降る京町家」
- 11月 | 杉本節子さんに聞く「商家を支えた信仰」
- 12月 | 杉本節子さんに聞く「京町家のおだいどこ」
京を囲う山々の緑いよいよ濃く、爽やかな風が心地よい季節。
清浄な香りと初夏らしい瑞々しさを湛えた菖蒲も盛りを迎えます。菖蒲の節句ともよばれる端午の節句はここ京都でも大切な節句として迎えられます。幾年にも渡り、子の健やかな成長の願いが込められてきた杉本家の五月人形をご紹介します。
大和朝廷の発展を飛躍的にもたらした応神天皇と、忠臣として誉れ高い翁姿の武内宿禰。
洛中の商家であった杉本家では、端午の節句にも気品がある姿の人形が好まれました。
明治期の商家の床飾りの様子をよく伝えています。
武を誇る鎧兜姿ではなく、烏帽子姿に鮮やかな狩衣、男雛のようにやさしく柔らかな表情の応神天皇。
狩衣の下からのぞく鎧が、尚武を願った五月人形であることを物語っています。
左:源義経
右:明治天皇
鎧兜に身を固め表情も勇ましい源義経。江戸後期のものと言われています。口元をきりりと引き結んだ表情に険しさはなく、典雅で品のあるお顔立ちです。
珍しい洋装の明治天皇の人形は、老舗で知られる大木丸平人形店で誂えられた限定品。それぞれの時代や世相を反映する人形の特徴が見て取れます。
驚くほどの精緻さで作り込まれた刺繍や飾り房に、京の職人たちの優れた技巧が存分に生かされました。
端午の節句の味といえば、粽や柏餅。龍を退けたという中国の故事に因んだ粽、新芽が出るまで古い葉を残すことから子孫繁栄の象徴とされる柏、いずれも願いを込めて食される節句の一品です。
京都の柏餅は、白味噌に砂糖を加え、飴色になるまで練った白餡が好まれています。
様々な姿で美と技を今に伝えてくれる杉本家の五月人形。
いずれも武者人形でありながら、表情には静かな気品が漂います。そのまなざしには子の健やかな成長を願った親の想いがこもり、優しい光を帯びてさえいるようです。