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第2回 杉本節子さんに聞く「京町家の年迎え」 京町家のくらし

杉本節子さんに聞く京町家のくらし
杉本家当主 杉本節子さん
京の人々は四季の移ろいを楽しみ、快適に過ごすため、くらしに様々な工夫を凝らしてきました。それらは長年にわたって研ぎ澄まされ、その所作、室礼には美しさが宿っています。歴史ある杉本家のご当主杉本節子さんから、凛とした京町家の暮らし方を学びます。
重要文化財杉本家住宅:町家としては京都市内最大規模に属し、表屋造りによる大規模な町家構成の典型を示します。建造物全体にわたって江戸時代に熟成された京大工の技量が遺憾なく発揮され、江戸以来の大店の構えを現在によく伝えています。

師走の京

年の瀬を迎えた京の街。賑やかさを増してゆく街頭に、そこを行き交う人々も足早になります。墨痕鮮やかに名優たちの看板が並ぶまねき上げ、社寺では終い行事の縁日や大根炊きの湯気。店先に並び始めた千枚漬の鮮やかな白さなど、師走の風物詩に事欠かない京都は、底冷えの寒さを一時忘れさせる彩りで一年を締めくくります。
京都有数の賑やかなエリア、四条烏丸からもほど近い杉本家住宅。邸内へ一歩足を踏み入れると、そこはおもての喧噪とはうって変わり、静かで穏やかな時間が流れています。幾年もの歳月を超え、いまもそこにあり続ける家屋や調度品、建具の数々が温かな空間を作り訪れる人を包んでくれるようです。

おだやかな冬晴れの日を選んで、ふたたび杉本家住宅へお邪魔しました。

  • 左 )家紋付の正月祝膳。杉本家は男性が裏片喰紋、女性が花菱紋。とされている。写真は杉本節子さんの膳組。
  • 右上)蓋と身の組み合わせに注意しながらやさしく扱う。
  • 右下)保管用の袋は、防虫効果が考慮され、藍で染められたもの。

漆器のお手入れ

杉本節子さんはお正月に備えて漆器のお手入れ中。数あるお道具や器を確認し、軽く拭き清めてゆきます。
杉本節子さんによると、片付ける時に意外に見落としやすいところはお椀の蓋のつまみと高台の部分。いずれも使うときに手が触れるため、手の油分が残りやすいのだそう。藍染の袋から現れたお椀には、お椀同士がくっつかないようにひとつひとつ紙が挟まれ、衝撃を和らげるための真綿が敷かれています。ほのかな温度を感じるような朱色の発色は、使い込まれて一層の深みを増しており、大切に扱われてきたことがうかがえます。
杉本家では、お正月用のお椀は一人に一つ。自分用のお椀でお正月を迎えます。「紋入りのお椀を拭き清めているとお正月が近づくことを感じ、心静かにこの一年の来し方を思うものです」と杉本節子さん。慌ただしい師走にあっても暮らし方のリズムを変えず、ひとつひとつを丁寧にこなしてゆくことが大切ということでしょうか。

  • 左 )清浄さを思わせる白い食材のみで仕立てられるお雑煮。添えられた三種の祝肴は数の子、ごまめ、たたき牛蒡。
  • 右上)頭芋には、人の頭になれるようにとの願いが込められている。
  • 右下)杉本家では大福茶に入る小梅と結び昆布は二つづつ。

杉本家のお雑煮

杉本家のお雑煮には白い食材以外は用いません。丸餅のほか、頭芋(かしらいも)と小芋に大根、それに鰹節は天盛りにします。頭芋、小芋、大根の処理も独特なもの。角が立たないようにいずれも面取りはせず、蒸して皮をむき丸く整えられます。お味付けはもちろん白味噌。
杉本家のお雑煮は、元日と二日は白味噌仕立て、三日は水菜の入ったすまし仕立てで供されます。一見、お雑煮椀の蓋と思われた小さな器は“かさ”と呼ばれるもので、数の子、ごまめ、たたき牛蒡といった三種の祝肴を盛るために用いられます。
少し早いお正月の話題に、これも欠かせないでしょうと杉本節子さんが淹れて下さったのは大福茶。小梅と結び昆布に煎茶を注いだものです。空也上人の疫病平癒の故事にちなんで新年の無病息災を祈ります。ほんのりとした塩味と酸味が加わるとお茶の温かさが一層体にゆきわたるようです。

お正月のうつわに寄せて

数多ある日本の伝統行事のなかでもお正月は特別なもの。来る一年に思いも新たにする寿ぎのひとときは、少し居ずまいを正して。たち吉のお正月のうつわは、伝統的な吉祥文様が施され、新年を祝う席にふさわしい佇まい。楽しくもきちんと改まった趣を演出します。
杉本節子さんが目にとめられたのは、染付七宝三段重。磁器ならではの取り扱いやすさと染付の清楚な絵付けが、ハレの正月料理をより華やかに引き立ててくれますね。というのがおススメのポイント。「一段をお一人用のうつわとして使っても面白いですね」と使い方のアドバイスもいただきました。
当主の「お祝いやす」の一言で始まる杉本家のお正月。商家として華美を求めず、あくまでも暮らしの延長にある祝い事としてのお正月を迎えた様子は、町家の風情にも似て本質が宿る磨かれた美しさを感じるものでした。暮れ行く今年。百年以上にわたってその様子を見守ってきた町家もまたひとつ歴史を重ねます。

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