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- 1月 | 杉本節子さんに聞く「京町家の年迎え」
- 2月 | 杉本節子さんに聞く「町屋を彩る花の風情」
- 3月 | 杉本節子さんに聞く「京町家のおひなさん」
- 4月 | 杉本節子さんに聞く「京町家 一服に憩う」
- 5月 | 杉本節子さんに聞く「京町家の五月人形」
- 6月 | 杉本節子さんに聞く「京町家の夏迎え」
- 7月 | 杉本節子さんに聞く「京町家の屏風祭り」
- 8月 | 杉本節子さんに聞く「京町家の夏の行事」
- 9月 | 杉本節子さんに聞く「京町家の秋の気配」
- 10月 | 杉本節子さんに聞く「秋の光降る京町家」
- 11月 | 杉本節子さんに聞く「商家を支えた信仰」
- 12月 | 杉本節子さんに聞く「京町家のおだいどこ」
かつて、人々の暮らしの中心には神仏への信仰がありました。時代の移り変わりとともにその多くは簡略化されてしまいましたが、祖先を敬い、家門の安泰を願う気持ちは変わることなく、しきたりや年中行事の根底にいまなお息づいています。初霜が降り、冬支度をひと通り済ませる頃に営まれる報恩講は、杉本家にとって極めて重要な行事とされていました。
「ほんこさん」すなわち報恩講は、浄土真宗の開祖、親鸞の遺徳を偲ぶ法要で、在家門徒によってそれぞれの家で営まれます。かつて、西本願寺の直門徒として勘定役を務めるなど、厚く浄土真宗を信仰してきた杉本家では、報恩講は家を挙げての一大行事でした。親戚やお店のお手伝いさん、門徒衆らが参集し、大変な賑わいだったようです。勤行が終わると、お
報恩講の荘厳(装飾品の意)は特別に格調高いもので、仏間と内陣を隔てている襖を取り払い、大戸帳が掛けられます。大戸帳が掛けられるのは、特別な法要に限られており、打敷、下懸などとともに赤を基調とした裂で荘厳されます。華美な装飾がほとんどみられない町家のなかで、最も装飾性溢れる場が仏間であり、最も美しく飾られるのが報恩講でありました。
細格子ごしに屋内へ届く陽光は、朱塗のうつわの艶やかさ、飴色に潤む茶托の溜塗など、漆器の奥ゆかしい表情を引き出してくれました。師走の足音も聞こえ始めるこの季節、くつろぎのひと時にはお正月前のお手入れを兼ねて、漆器のうつわを選ばれてはいかがでしょう。