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- 1月 | 杉本節子さんに聞く「京町家の年迎え」
- 2月 | 杉本節子さんに聞く「町屋を彩る花の風情」
- 3月 | 杉本節子さんに聞く「京町家のおひなさん」
- 4月 | 杉本節子さんに聞く「京町家 一服に憩う」
- 5月 | 杉本節子さんに聞く「京町家の五月人形」
- 6月 | 杉本節子さんに聞く「京町家の夏迎え」
- 7月 | 杉本節子さんに聞く「京町家の屏風祭り」
- 8月 | 杉本節子さんに聞く「京町家の夏の行事」
- 9月 | 杉本節子さんに聞く「京町家の秋の気配」
- 10月 | 杉本節子さんに聞く「秋の光降る京町家」
- 11月 | 杉本節子さんに聞く「商家を支えた信仰」
- 12月 | 杉本節子さんに聞く「京町家のおだいどこ」
市内最大規模の町家として知られる杉本家には数多くのお部屋があります。どのお部屋もその目的・役割に応じて多彩な特徴を備えており、そこで営まれた暮らしぶりや、込められた思いに触れることができます。室内の随所には花が生けられ、お部屋に彩を添えるとともに、訪れた方の心を和ませる静かな美しさを醸しています。
現代のくらしに慣れた目には少しほの暗さを覚える町家の屋内では、花の色、姿かたちをより鮮明に感じ、それらが空間に与える効果をはっきりと実感することができます。
今回は、様々な花材と花器を携え、杉本家を訪問します。特色あるお部屋にあわせ、お花を活けてまいりました。
綾小路通に面する大戸をくぐると、そこは商家として商いを行う場であった店の間。伝統と重ねてきた年月を感じる重厚な看板が迎えてくれます。磨き込まれて深い飴色を湛える建具と調度品。格子戸を通してやわらかい光が注ぐ店の間は、訪れる人を最初に迎える空間です。
西向きに建て込まれ、聚楽壁のほんのりとした発色も明るく心緩むお部屋。主に杉本家の方々のくつろぎの場として用いられました。隣接する露地庭との境にも縁側を設けない数寄屋の造りは、部屋に居ながら時の経過や季節の移ろいを身近に感じられます。
昭和初期に店用の客間から洋間へ改装されたお部屋。天井を高く取り直し、床材にはコルクが用いられた一方、町家ならではの格子の縦基調の趣が生かされています。それらはアールデコ調で統一された家具調度品とも見事な調和を見せ、昭和初期の浪漫の香り高い一室です。
冬の花の代名詞とも言える水仙。ふんだんに活け込めば、この季節ならではの清浄な香りを楽しめます。
左(姫水木・蘭・たちかずら)
右(水仙・山茶花)
杉本家は浄土真宗の門徒として厚く帰依し、かつて本山勘定方をも務めました。深い信仰ゆえ、独立棟として西側に張り出す造りとするなど、仏間の建立に際しては様々に心が配られたことが伺えます。隣接する仏間庭では青海波に敷かれた滑り石と唐銅水盤にゆれる水面が心静まる風情をいっそう深めます。
大切な客人を迎え、ハレの日の行事等の行われる座敷は、邸内において最も格式の高い空間です。七.八九尺の高さに棹縁天井を張り、角柱を使っての書院造にも似た、格調高く、単純で大らかな構成の美しさをみせています。九条土を塗り上げた砂摺の壁は、明かりをかざしてみれば黒緑色に群青が混ざった色合いで、北向きの座敷でかすかな光をも明るく感じることができます。
大店の建築遺構として高い価値を有する杉本家住宅には、見学者はじめ沢山の方が訪れます。お客様を迎えるにあたっては、掃き清め、水を打つ、という基本にはじまり、香や軸を選び、心地よさを味わっていただくための空間を準備がなされ、随所に活けられるお花もこの室礼のひとつに数えられます。杉本節子さんは花の役割としては、美しさを愛でることに加え、より大切な要素があるとおっしゃいます。
「美や技を愛でていただくのもひとつですが、お花を置くことでその空間におもてなしの心遣いを行き届かせる、その思いを込める事がなによりも大切かと思います。」構えることなくお越しになる方のことを思い、心を込めて活けることが大切という事ではないでしょうか。町家の空間とお花。それらは互いに引き立て合い、好ましく影響し合う結びつきを感じるものでした。
たち吉の花生
「町家の風情と個性豊かなたち吉の花生との組み合わせも味わいある風情を生んでいますね。」と
杉本節子さんにお褒めいただいたたち吉の花生は、素材や技法に富んだラインナップです。
くらしのそばにお花を。彩りと潤いのある日々をお楽しみください。