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第5回 杉本節子さんに聞く「京町家 一服に憩う」 京町家のくらし

杉本節子さんに聞く京町家のくらし
杉本家当主 杉本節子さん
京の人々は四季の移ろいを楽しみ、快適に過ごすため、くらしに様々な工夫を凝らしてきました。それらは長年にわたって研ぎ澄まされ、その所作、室礼には美しさが宿っています。歴史ある杉本家のご当主杉本節子さんから、凛とした京町家の暮らし方を学びます。
重要文化財杉本家住宅:町家としては京都市内最大規模に属し、表屋造りによる大規模な町家構成の典型を示します。建造物全体にわたって江戸時代に熟成された京大工の技量が遺憾なく発揮され、江戸以来の大店の構えを現在によく伝えています。

早春の格子の間

第5回 京町家 一服に憩う

ほころぶ蕾が京の町に春の訪れを告げます。
冬を尽くして迎えた光あふれる季節を迎える喜びに、花も鳥も目覚めを歌い、花々に彩られた古都は一層の華やかさに包まれます。四条通のアーケードを避け、あたたかい日差しを楽しみながら綾小路を西へ。早春の杉本家の町家は、高くなりつつある陽光に陰影を和らげた明るい表情で迎えてくれました。

おうすの時間

杉本家では、午前10時と午後3時頃、家事がひと段落ついた頃合いに、おうす(薄茶)の時間を持たれます。水屋箪笥からお道具一式を収めた色紙箪笥を取り出し、おうすを点ててつかの間の休息を取られるのです。煎茶より手間がかかると思われるおうすですが、ご家庭ならお好みに合わせて濃さや量を自由に調整できるうえ、茶葉の始末が不要なため、お道具を揃えればごく簡単に日々の暮らしに取り入れることができます。杉本家のお薄の時間もなにかと忙しい家事の合間のこと。正式な手前ではなく、略式で点てられますが、一服のおうすは心をほどき、お互いを労う和やかな会話の生まれる大切な時間です。

八畳間より庭を望む

手づくりのお菓子と共に

杉本家の常の日のおうすの時間には、手作りのお菓子が楽しまれることも。
そのひとつ、ご祖母様の自慢のひと品でもあったゆべしはお庭で取れたゆずを使って作られます。
薄く切ったものを口に運べば、柚子のほろ苦さと味噌の甘さが広がり、おうすに良く合います。白味噌が用いられるそのレシピは、杉本節子さんに受け継がれ、今でも作られています。手づくりのお菓子といえば、お母さまが作られるクレープも杉本節子さん幼き頃の想い出の味。こんがりと焼き目のついた生地を折りたたみ、黒糖を振ったシンプルなクレープは杉本家では「田舎せんべい」と呼ばれバターの香り高い出来立ての美味しさを懐かしく振り返られました。

白川の枝垂れ桜

京菓子とうつわ

公家文化に親しみ、社寺や茶家を多く擁する京都には、様々な行事や 儀式に献上されてきた京菓子があり、いまも多くの老舗京菓子店が美意識と技を競います。季節感をなにより尊ぶ京菓子は2週間ごとに季節が変わるとされ、小さなお菓子に表現される見事な四季折々は工芸品のような佇まいを見せます。今回のお菓子はいずれも鶴屋吉信さんのもの。洗練された季節感と風味豊かな京菓子づくりで知られます。
「四季折々に意匠が凝らされた菓子を選ぶ楽しさは、京菓子がくらしに根付いている京都ならではのものですね。それに合わせる器はお菓子の風情を引き立ててくれる組み合わせとなるよう、かたちや色味を吟味すれば良いと思います」という杉本節子さんのアドバイスにより、色とりどりながらほんのり淡い春の京菓子には、色味を抑えたシンプルなうつわを選びました。昨日までの枝の蕾がにわかに薄桃色に色づき、日を追うごとに陽光が温もりを増すなか、京の町は春たけなわを迎えます。

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