



「家のつくりようは夏を旨とすべし」と徒然草にあるように、くらしにおいて蒸し暑さは寒さよりも凌ぎ難いとされてきました。三方を山々に囲まれ厳しい暑さで知られるここ京都の町家では、建具を涼やかなものへと取り換え、夏を迎える支度を整えます。

障子、襖を夏建具へ変える建具替え。杉本家では梅雨の収まる7月ごろに行われます。庭に萌える緑が障子を染める様子は、この時期ならではの風情です。

簀戸(すど)と簾(すだれ)は、強い陽射しを和らげ風を招く夏の建具。飴色の建具が作る翳りに身を置けば、まるで木陰に憩うかのようです。

細かな五月雨に濡れる庭の若葉。運ばれる風に濃い新緑の香りを感じます。仏間庭では、滑石が黒くしっとりとした光を湛えます。唐銅水盤に滴る水音、海を模して据えられた蟹の置物が涼やかな水辺を思わせます。

光線を和らげて風を招き、雨音や葉擦れを届かせる夏の建具は、五感の全てで涼しさを味わうための思想と工夫に溢れています。卓上のうつわを夏のものへと変えることも涼をよぶ工夫のひとつ。渡る風に注がれた冷茶が揺れるガラスの冷茶碗は夏の定番です。薄手の衣へ替えるように、室礼を夏のものにかえてゆく。合理的であるために絶えずつづけられてきたくらしの工夫は、空調とは異なる心地よい涼しさを今なお私たちに実感させてくれます。